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新しい「働く場所」のカタチ vol.2

地域の中で、人と人が出会う場所を提供するコミュニティ---HanaLab.(長野県上田市)

地域の中で、人と人が出会う場所を提供するコミュニティ---HanaLab.(長野県上田市)

 

近年、「デュアルライフ(二拠点生活)」が注目されているように、場所にとらわれない生き方・働き方を実現しようとする人が増えています。そしてそれは、子育て中のママであっても同じこと。「ママプレナーズ」代表の柳澤由香も、現在、東京と長野を行き来してデュアルライフを実践中です。

そこで今回は東京を離れ、長野県初のコワーキングスペースとなった「HanaLab. (ハナラボ)」をご紹介します。ママプレナー®のワーク&ライフスタイルにプラスとなるコミュニティを求め、さまざまなカタチの「働く場所」を訪ねるこの企画。今、長野県にはどんな動きがあり、ママプレナー®にとってどのような可能性が広がっているのでしょうか。

 

[関連記事]ワーク&ライフが交錯する、ダイバーシティなコミュニティ—RYOZAN PARK(東京都豊島区)

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長野県上田市の「HanaLab.」代表・井上拓磨さんをたずねる

JR東京駅から、新幹線に揺られて約1時間半。長野県の上田駅を出て、10分ほど歩くと海野町商店街にたどりつきます。その一画にあるのが、「HanaLab. UNNO(ハナラボ ウンノ)」。現在、「HanaLab.」の施設は上田市内3か所にあるのですが、2015年4月にオープンしたこの場所は、子育て中のママ向けに作られたコワーキングスペースとなっています。

扉を開けて一歩中に足を踏み入れると、まず驚かされるのはその広さ。奥行きのある空間を最大限に活かして、一つひとつの席がゆったりと配置されていました。大人数のイベントにも対応可能な1Fはひと続きのコワーキングスペース、2Fには個室のシェアオフィスが7つ。子ども連れのママのために、託児所も併設されています。

なぜ、上田市にこのような場所を作ろうと思ったのか……? 「HanaLab.」代表の井上拓磨さんに、詳しいお話をうかがいました。

 

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▲井上拓磨さん

コワーキングスペース&シェアオフィス「HanaLab.」代表。出身は愛知県名古屋市。大学院卒業後、会社員を経てフリーランスに。パートナーの実家がある長野県上田市で暮らすようになると、地元の近くで仕事ができる場所を作りたいと考え、2012年2月にコワーキングスペース「HanaLab.」の1号店(HanaLab. TOKIDA)をオープン。創業支援などに取り組みながら、続けてカフェ併設の「HanaLab. CAMP」、そして女性向けの「HanaLab. UNNO」を開設。

[公式サイト]HanaLab.

 


 

はじめは純粋に、自分が働く場所がほしかった

― そもそも、上田市でコワーキングスペースを作ろうと思ったきっかけは何でしたか?

もともと僕は印刷会社に勤めていたのですが、あるとき九州に転勤になってしまって。自分としては特に何も不満はなかったのですが、妻が上田市の出身で、「地元に帰りたい」といわれたのがすべてのはじまりでしたね(笑)

上田市に移り住むために会社を辞め、たまたま携帯のコンテンツ配信を手がけていた姉の仕事を、フリーランスとして手伝うようになりました。でもひとりで働いているうちに、日常的に誰かと何気ない雑談ができて、仕事に取り組める場所がほしい……そう考えるようになりました。

― 他にもフリーランスの方などがいて、そういう声があったのですか?

いえ、その当時は知り合いが上田市に全然いなくて、わからなかったです(笑)だから最初は純粋に、自分が働く場所をつくりたかった……というのが正直なところですね。実際にこうした場所を作ってみてから、フリーランスで働く人は少ないという印象を受けました。

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― いきなり場所を探したのですか?

まずは仲間集めをしましたね。デザイン会社に勤めている知人と、飲み会をするところからスタートしました。また当時は、ちょうど東京でコワーキングスペースができはじめていた頃でした。そうした施設をいくつか見学をさせてもらって、こういう場所が地元の近くにも欲しい! と思ったんです。

― こうした場所があると、地域の活性にもつながりそうですよね。

ああ……確かにそう見られることも多いです。ただ、いつも根っこにあるのは「自分たちが上田市で楽しく生きていきたい」ということにほかならないんですよね。おもしろい人や、何かにチャレンジする人が増え、そういう人がこの場所に集まるようになったら楽しいじゃないですか。それは今も、ずっと変わらない気持ちです。「地域活性」とか「起業家支援」とか、「女性の活躍推進」とか……それらはあくまでもあとからついてくる結果であって、目的ではないと考えています。

 


 

今、地方に足りないのは、「偶然の出会い」が生まれる場所

― 実際、2012年にコワーキングスペースを開設されていますが、当初の反応はどうでしたか?

個人で働く人は少ない、という実感はもともとありましたが、実際にコワーキングスペースを作ってみても……やっぱりいなかった(苦笑) 1号店を立ち上げたあと、上田市や商工会議所など様々なセクションの方とお会いしましたが、周囲の人は「井上君という変な人が、何かよくわからない場所を開いた」という程度の認識だったと思いますよ。地元の人と信頼関係ができて、少しずつ会員が増えはじめたのは3年目くらいから。本当につい最近のことです。

hanalab-5▲さまざまな会員の方が利用するHanaLab.UNNO。それにしても伝わるでしょうか、この広さ……。

― なかなか人が集まらないなか、井上さんはコワーキングスペースを地元で開設することの意義を、どんなところに感じていたのでしょうか。

東京などの都市部では、さまざまな交流会やセミナーが日常的にあって、人を集める場所や機会もたくさんありますし、そこに足を運びさえすれば誰にでも会えますよね。でも地方ではそもそも、人が集まる場所がないんです。そこが最大のネックになる。

地方であっても、拠点さえあれば、みんなが集まってくるはず。上田市にコワーキングスペースがあれば、必ず人が集う場所になる、と考えていました。

― 人が集まることで、どんな状況が生まれると考えていたのですか?

大切なのは、多様な人が集まる場所で生まれる“偶然の出会い”だと思っています。例えば、私たちは地元で創業支援なども手がけているのですが、どんなに起業を推進する制度を整えたとしても、独立する人というのは一定数以上増えていかないんですよね。

実は、創業や独立を決めた理由として一番多いのは、「知り合いが起業していたから」「たまたま知人から話を聞いて」というものなんです。要は、自分にとって身近なものにならないと、起業や独立のハードルは下がらないということ。

やりたいことや事業プランがあって、自分から「起業しよう!」と考えられる人は、制度や支援なんてなくても勝手に独立し、どんどん活躍しはじめるんです。でも、将来何となく起業してみたいなという人にとってのきっかけは、たまたま飲み会で会った人が起業していてその話に興味を持った……とか、そんなごく普通の日常の中にあることが多いと思います。

― なるほど……確かにそうですね。

大体20〜30人くらい……学校のひとクラスぶんくらいの人が集まるようになると、そこがひとつのコミュニティとして成立するようになります。そうすると、さまざまな可能性が広がるんです。「HanaLab.」ではそうしたコミュニティを形成して、人材のインフラとしての役割も果たしていきたいと考えています。

hanalab-1▲半個室の可愛らしい応接スペース。この他、完全個室の広い会議室もあります。

 


 

女性が働く選択肢を増やすことで、子どもたちにも多様性を伝えたい

― コワーキングスペースを運営するなかで、女性向けの「HanaLab. UNNO」を作ろうと思ったのはなぜですか?

一号店の「HanaLab. TOKIDA」に、主婦の会員さんがいたんです。「HanaLab. UNNO」が生まれたのは、彼女の「こういう場所があったらいい」という声がきっかけでした。例えば託児所があったらいいとか、キッチンがついているとうれしい、とか……ハード面に関しては、ほとんどがその方の意見でできた場所ですね。

hanalab-2▲手前にあるのがキッチンスペース。「ママランチDAY」なども開催されています。

― 今、どのようなことに取り組まれているのか教えてください。

上田市でも、女性が活躍しきれていない現状がありました。そこに優秀な働き手がいるはずなのに……。ただ、どうしても女性は出産・子育てでブランクが3年以上空いてしまうことが多く、どんどん自信を失ってしまう方が多いのが現状でした。

そこで、「HanaLab. UNNO」ではママたちが社会復帰をするための支援をするところからはじめています。オフィス系の仕事をするためのスキル講座などを行い、「HanaLab.」として企業から仕事を受け、会員の方に取り組んでもらう……というようなしくみづくりにもチャレンジしているところです。試行錯誤しながら、少しずつ実績を重ねている段階ですね。

― 将来的には、この場所をどんな場所にしていきたいですか?

女性が、チャレンジしたいときにチャレンジできる場所にしたいです。そして、そういった女性が社会に必要とされるコミュニティに成長させられればうれしいです。

その他、構想はいろいろありますが、例えば子ども向けのアフタースクールなども作ることができると思っています。単なる学童保育ではなく、塾の役割も兼ねるようなイメージです。子どもを介して親同士がつながるようになれば、そこでまた新しい可能性が生まれるのではないか、と。

hanalab-6▲広いスペースを活かして、セミナーや勉強会、イベントなども開催されています。

「HanaLab. UNNO」の活動も、アフタースクールなどの構想もそうなのですが、やはり今後、自分の子どもをはじめ、大勢の子どもたちが上田市で育っていくということを改めて考えています。確かに、ここは自然が豊かで暮らしやすい場所です。でも、職業の多様性となると圧倒的に少ないのが現状で。大人自体がそうなので、子どもにも多様な価値観が生まれにくいと思います。これからその状況を少しずつでも変え、上田市を「楽しく生きていける場所」にしていけたらいいですね。

*  *  *

「HanaLab.」のような場所や活動は、どうしても“地方と都会”という二極化した軸と、「地域活性化」「まちづくり」「女性活躍推進」などの固定化されたイメージで括られてしまいがちです。また、起業などに関しても「支援」ありきの制度やしくみが先行してしまう状況もあるでしょう。

それを目的にするのではなく、まずは地元の人たちの生活にとけ込み、その一部になること。そして人が集まる場所となり、コミュニティのなかで多様な出会いを生み出すこと。「自分たちが楽しく生きていくために」――井上さんのお話をうかがうなか、本当に一番大切にするべきは、そうした想いなのかもしれないと強く感じました。

[取材協力]HanaLab. (HanaLab. UNNO)

 

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