内海 裕子2016/8/3

株式会社 natural rights代表取締役/小酒部さやかさんに聞きました
働く女性が妊娠・出産・育児をきっかけに、職場で精神的・肉体的嫌がらせを受けたり、解雇や降格などの不当な扱いを受けたりするマタハラ。ママプレナーを初め、働く女性の多くが、長い間この課題に直面してきたのではないでしょうか?そして 平成29年1月、企業にマタハラ防止措置を義務つける法律が施行され、日本社会は大きく変わろうとしています。
ご自身の「マタハラ」の体験から被害者団体「マタハラNet」を起ち上げ、法令化に尽力し、日本人女性として初、米国務省で「 世界の勇気ある女性賞」を受賞された小酒部さやかさん。現在は被害者であったという立場を超え、「どの選択をしたとしても認められる豊かな社会」の実現を目指して、企業と社会を変えていく活動へとシフトされています。今回は止まることなく成長し、活躍の場を広げられている小酒部さんに、 「ママプレナー」としての現在までの道のりを伺いました。
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Profile
小酒部さやかさん(Sayaka Osakabe)
自身の経験から、2014年7月に被害者支援団体である「NPO法人マタハラNet」を設立し、マタハラ防止の義務化を牽引。2015年3月には、女性の地位向上への貢献をたたえる、アメリカ国務省「国際勇気ある女性賞」を日本人で初受賞。2015年6月「ACCJウィメン・イン・ビジネス・サミット」にて安倍首相・ケネディ大使と共に登壇する。現在は、株式会社natural rightsの代表として、仕事と生活の両立が”natural rights”となるよう、講演・企業研修や執筆活動を行っている。
― マタハラネットを起ち上げられた経緯を教えていただけますか?
『マタハラ』という言葉は、元々社会学者の杉浦浩美先生が著書の中で、書かれていたものなんです。私自身が『マタハラ』という言葉に出会ったのは、上司に妊娠を告げた後「契約を更新するな」と迫られ悩んでいた時でした。たまたまマタハラの記事を目にして、「自分のことだ」と。そこから動き出したんです。
まず私が興味を持ったのが「他にどんな被害があったのかな?」ということでした。
最初に記者さんを通じて、2人の女性を紹介してもらいました。一人の方は育休切り、もう一人の方は復帰した後に時短勤務をさせてもらえない、復帰した直後から残業をさせられるという事例だったんです。それを聞いて気づいたことは、一口に『マタハラ』といっても色々な状況があるんだな、と。
― たしかにそうですね
であれば、被害者同士が繋がり、集って話す場が必要だ、と。私自身もつらかったので、お互い話をしたかったですしね。その流れの中で団体を起ち上げよう、情報発信していこうという想いが強まっていきました。NPO法人にしたのは、米国務省で『世界の勇気ある女性賞』を受賞しちゃったからなんです(笑)。安倍首相と一緒に登壇したので、そこに恥じないように、きちんとした団体にしよう、と法人格をとることにしました。
― 最近では『ファミリーハラスメント』という言葉も提唱されていますね。
マタハラ・パワハラ・セクハラで「三大ハラスメント」と連合が呼んでいますが、私は『マタハラ・パタハラ・ケアハラ』の三つをまとめて『ファミリーハラスメント』と呼んでほしいと思っています。
制度を利用する時には、必ず制度の利用をフォローする人たちがいます。例えば上司の方や同僚の方が、制度を利用した女性のフォローをします。そういった人達にもきちんと目を向けて、その人達の仕事の評価や負担感などを平等にしていき、不公平感がないようにしていくという事までしてかないと、この問題はなくならないと思っているんです。
そうしないと、妊婦さんが 加害者になってしまうこともありえます。例えば、わざと体調が悪いと言って仕事を放棄することで、他の人に過度の負担がかかる。仕事の采配を全部自分で都合のいいようにしてしまう。制度だけ利用して仕事を辞めてしまう。企業研修をしているとそんなケースで困っているというお話を伺うこともあります。
― 制度を利用する人、それをフォローする人、両方へのアプローチが重要なんですね。
はい。今までは大手企業さんを中心に産休育休制度を普及させていましたが、今後は中小企業に勤める多くの女性たちも、制度を利用できるようになるべきだと思います。そのためには、企業側も新卒で入社した時から、「これは『権利』ではなくて仕事を続けていくためのサポートのための制度なんだ」と言うことを、男女問わずきちんと教育の場で伝えていく必要があると思いますね。
制度を利用する人、フォローする人、教育制度、これらすべてをひっくるめてマタハラ問題なんだ、ということを認識してもらわないと、この問題は解決できないと考えています。
― ご自身がどんどん進化されていますね。最初は自分が被害者から立ち上がられて、その後やはり企業を変えていかなくては、というところにまで来られた。
『マタハラ』はすごくスピーディに動いて、マタハラ法改正まで行くことができました。一方、『マタハラ問題』について考えれば考えるほど、企業が本気でマネージメントして産休を取れる体制を整えないと、この問題は解決しないということが分かってきました。
もちろん私は被害者から立ち上がっているので、妊婦さんの気持ちは痛いほど分かります 。ですが、私はどちらの味方でもありたいし、できればその架け橋になりたいと考えています。
― 株式会社natural rightsを起ち上げられたきっかけも教えていただけますか?
『マタハラNet』は元々被害者団体なので、企業さんと名刺交換する時に警戒されてしまうんです。「うちはハラスメントは大丈夫ですから」と。偵察しに来たみたいに見られちゃうんですよね…。そうなってしまうと、お互いに手を取りあうことはできない。だから株式会社化することにしました。
株式会社natural rightsでなら、私がどんな課題に取り組んでも自由です。自分でやりたいことを手広くやって行けば、色々なテーマで取材を受けることができますし、そのテーマの有識者としてみてもらえるので、幅広く活動していくことができるようになりました。
― 具体的にはどんな事業をされていらっしゃるのでしょう
マタハラ・パタハラ・ケアハラの講演活動をしています。加えてジャーナリストとしてYahooで記事を書いたり、寄稿をして、さまざまな問題提起をしています。今は育児中ということもありますし、しばらくは身軽に行こうかな、と考えています。育休はないので、働かないとお金は入って来ないですけどね。
― そんな中、最近取り組まれているテーマがあると伺いました。
はい。今、平田麻莉さんと、フリーランスや経営者の女性のムーブメントを起こ
■「経営者やフリーランスで働く女性の44.8%が産後1ヶ月以
フリーランスの人たちって、国民健康保険に入っていても 産休の手当もないですよね。国民健康保険は任意ですし、業界団体によっては産休手当を出している保険もあるらしいのですが、すべての保険で産休手当を出してほしいな、と。加えて、せめて産休の間だけでも社会保障費の免除をしてほしい、と訴えています。
― 私自身も起業をしているのですが、事業をどうしていこうか迷うときがあります。
私だったらとりあえず全部やります。全部やって手ごたえを感じてから、その場その場で判断していく。走りながら軌道修正をしていく感じです。止まって考える、というのは無理なんですよね。私は止まったら、誰かと会っています。
「世界の勇気ある女性賞」を受賞して、知名度を得て一番よかったのは、人が会ってくれるということだと思います。『マタハラ』を広めたことによって得た、それが最大の収穫です。本当にラッキーでした。
― 事業を進める中で大変なこともあったのではないですか?
そうですね。以前は上手くいかないことがあると、「なんで」と言って周りの人を責めたり、「私はダメな人間だ」と自分自身を責めることもありました。でも今は誰か「人」のせいにするのではなくて、「やり方」のせいだと切り替えるようにしたんです。そうしたら楽になりましたよ。落ち込んだとき、抜け出しやすくなりました。誰かを人間として憎んでいたらツライですよね。そうではなく「あの時のあのやり方が違っていたんだ」となると、気持ちの整理がとても楽になりました。そうやって切り替えていくと脱却が早いかもしれないですね。
― 女性が働き続ける上で、企業の理解と同様、家族の理解も大切だと感じています。
そうですよね。家族の理解がないと働けないですよね。やはりパートナーの理解は、すごく大事だと思います。
― そして収入の話だけではなく、女性が産後も社会とつながっていくことが、大事なのではないでしょうか。
自分の自己実現や自分の役割、存在意義を社会の中でも持っておきたいですよね。私の幸せの価値観って、色々なものがちょっとずつあることだなぁと感じています。お金や地位や名誉だけドーンとあっても幸せじゃないですよね?家庭があって、仕事があって、趣味があって、色々あるのがやっぱり幸せなんじゃないかな。これからはパラレルキャリアとか副業とか、そういう考えが主流となる時代になっていくのではないでしょうか。お金や目に見えるものだけではなく、精神的な面でも満足していられる。それがすごく大事だなと思います。
― 以前の女性の働き方は、出産を諦めてキャリアを目指すか、あるいは主婦になるという、その両極端しかなかったですよね。でも、どちらも楽しんでいる、バランスをとっている働き方があってもいい!というのがママプレナーズの目指しているところなんです。
はい。『豊かな社会』と言うのは選択肢が多い社会だと思うんですよね。だから選択肢の1つとして、専業主婦でもいいし、ワーママでもいい。子どもを産まないと言う選択肢もあっていいと思います。どの選択をしたとしても認められて、無理なく生きられるのが一番良い豊かな社会だな、と思っています。それこそが多様性ですよね。
■小酒部さやかさんの著作
「ずっと働ける会社 マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!」(花伝社,2016)
Interview by Yuka Yanagisawa/Text by Azumi Nozaki
Writer
Mompreneurs 編集部
Mompreneurs 編集部です。
Coming soon.