夫婦2人で開業した後、「子ども向け」歯科医院をスタート
「小さなお子さんを歯医者に連れてくるのは本当に大変。周りに迷惑をかけて、怒られて、子どもも怖がって……それで歯医者に来なくなってしまうんです。そのために虫歯がどんどん悪化し、大人になったときにはもう歯がボロボロになってしまう……そのサイクルをどうにか止めたいと思っていました」
そう話してくれた園延さんは現在、東京都港区にある「白金こどものはいしゃさん」の院長を務めています。予防歯科の考え方をベースとした、0歳から12歳までの子どもを専門とする小児歯科医院です。
歯科医院を経営していた家に生まれた園延さんは、ご自身も同じ道を進み、やがて結婚したのも同じ歯科医師。その過程で自然と、独立開業を意識するようになりました。
「正直、結婚前はそこまで仕事に打ち込むことを考えていませんでした。でも実際に開業するとなると、ちゃんとやらなければという気持ちに変わっていったんですよね」
2006年、ご夫婦で成人向けの歯科医院をスタート。開業当初から子どもの患者にはムリをさせず、「心の成長を大事にする」という方針で取り組んでいたため、すぐに口コミが広がり、少しずつ子どもを連れてくる人が増えていったのだそうです。
「大勢の患者さんが来てくださるのはうれしかったのですが、大人仕様にしていたクリニックの雰囲気が変わってしまって……。それならいっそのことコンセプトを完全にわけてしまい、徹底的に子どもにフォーカスして、子どもたちが『行きたい!』と思えるような歯医者をつくろうと思ったんです」
数年かけて医院の土台をつくり、 出産のタイミングを迎える
こうして、本院から徒歩2分の場所に「白金こどものはいしゃさん」がオープンしました。こうした歯科医院が果たす役割の大きさは、のちに院長みずから改めて実感することになります。それは、園延さんが第一子を妊娠・出産してからのことでした。
「実際に子どもが生まれてみると、歯医者で治療を受けることのハードルや、周囲に対する気の使い方など、その大変さを再確認しました。だからこそ、気兼ねなく通える環境が必要だと感じましたね。おかげさまで、私自身も職場に子どもを連れてこられていますし(笑)」
しかし院長という立場上、妊娠・出産の前後はどのように対処されていたのでしょうか。
「第一子を出産したのが開業から6年がたつ頃だったのですが、逆にいうと、開業当初は『5〜6年は生めないな』と思っていました。医院の土台ができるまでは……という感じでしたね。最初の出産前はギリギリ1か月くらい前まで働いて、不在にする2か月間の体制を整えておきました」
スタッフの数が増え、ある程度任せられる体制が整ってきたこともあり、園延さんは2015年に第二子を出産されています。現在は2人のお子さんの育児をしながら、マネジメントなどを中心に、バランスを取りながら仕事に取り組んでいるそうです。
楽しく幸せに過ごせる “歯医者さん”をつくるために
二人三脚で2か所の歯科医院を運営する園延さんご夫婦には、共通の目標があるそうです。
「私たちは、みなさんに歯科医院をもっと好きになってほしいんです。子どもたちだけではなく、大人の方も歯医者に苦手意識を持つ人は多いですよね。だからこそ、誰が来てもリラックスできて、気持よくすごしてもらえるような空間をつくっていくのが目標です」
そうして子どものうちに楽しく歯医者に通うことができれば、予防する習慣がしっかりつきます。そうすれば一度も痛い思いをすることなく、大人になってからも虫歯も歯周病もゼロで過ごせるはずーー園延さんはそう考えているのだとか。
はじめは夫婦2人ではじめた小さな医院でしたが、この10年の間に、2か所合わせて30名弱のスタッフを抱えるまでになりました。将来的な目標を見据えたうえで、園延さんは今、スタッフの採用や教育、マニュアルの整備や軸となるマインドの徹底など、さまざまなマネジメント業務に取り組んでいるそうです。
「患者さんはもちろんですが、働いているスタッフに、楽しくやりがいの持てる環境を提供することも大切です。医院自体も、ゆくゆくは2か所を統合して一軒の大きな総合歯科をつくろうと考えています。みなさんが苦手な“歯医者さん”を、少しでも楽しくて幸せな場所にしていきたいですね」
仕事で描くビジョンが、 そのまま家族の未来につながる
旦那様が院長を務める「オーラルビューティークリニック白金」は日祝日もオープンしているため、家族の時間を取るのはなかなか難しいそうです。家事や育児は基本的に園延さんがしていますが、旦那様も仕事の合間に息子さんのサッカー教室につきそうなど、お互いにできる限り協力し合っているのだとか。
「どうしても忙しくて夜も遅くなりますし、夫の仕事の状況が大体わかってしまうんですよね。疲れているに決まっているし、これだけしてくれたらもう頼みづらいな、とか。そんな状況なので、子どもの世話をしてくれるだけでもありがたいなと思っています」
どうしてもご自身の仕事が抜けられないときは、シッターサービスを利用したり、ご両親に頼ったりすることもあるそうです。
「私たちは自営業なので、仕事のビジョンは、そのまま家族の未来に直結することになります。夫婦で共通の目標を共有しているので、お互い協力してその目標に向かってがんばれば、その結果が家庭にもついてくる……それがいいところじゃないでしょうか」
お子さんが2人になった今、できるだけ夫婦2人の時間もつくっていきたいと、園延さんはいいます。
「やはりきちんとコミュニケーションを取っていかないと、ビジョンが少しずつズレてしまうこともありますから。子ども中心の家族の時間と、夫婦2人の時間。これからはその2つを意識していきたいですね」