内海 裕子2016/8/3

# 003
鈴木 美里佳
Mirika Suzuki
Baby&kids sitter
今回の「MOMPRENEURS STORY」に登場していただくのは、「働くママに笑顔を」というコンセプトのもと、ベビー&キッズシッターサービス「mormor(モルモル)」を展開している、myrica tree株式会社代表の鈴木美里佳さんです。なんと、小学生のころから独立願望があったという鈴木さん。会社員をしていた24歳のときにお子さんを出産し、そのときのご経験を生かして起業されています。その事業には、鈴木さんご自身の熱い想いが込められていました。その想いも交えながら、鈴木さんのストーリーをお話いただきました。
2015/5/27 15:30
鈴木 美里佳(Mirika Suzuki)/ myrica tree(ミリカツリー)株式会社代表。IT企業、不動産会社での営業経験を経て、2012年に独立し、「働くママに笑顔を」をコンセプトとしたベビー&キッズシッターサービス「mormor(モルモル)」の提供をスタート。現在登録中のシッターは80名に上り、毎月300件以上の依頼を受託している。5歳の男の子のママ。
◆公式サイト http://mormor.co.jp/
「父が公務員で、母が専業主婦。安定していて幸せな家庭で育ちましたが、両親はやっぱり、私たち3人兄弟のために犠牲にしてきた部分もあったんじゃないかと思うんです」と話してくれた鈴木さん。恵まれた環境と、ご両親に感謝の気持ちを持ちつつも、違った生き方を模索するようになったのだそうです。
「私は欲張りなので(笑) やりたいことを、我慢せずに生きていきたいと思っていました。起業という言葉は知らなかったけれど、小学生のころから『自分のお店を持ちたい』というようなことを考えていましたね」
独立志向がもともと強かった鈴木さんですが、「何をやりたいか」という目的が明確になったのは、結婚・出産から仕事に復帰したときのご自身の体験からだったそうです。24歳という若さでお子さんを産んだため、周囲の友人や同僚はまだ独身だったり、子どもがいなかったり……。
「当時勤めていた会社は子育てにも理解があり、残業もなかったので、環境としては恵まれていました。でも、私はプライベートでやりたいこともあるし、友人たちとの付き合いも大事にしたかったんです。世間一般的には、子どもがいるパパが仕事帰りに居酒屋に飲みにいっても何も言われないのに、それがママだと叩かれる風潮がありますよね。ほんのひとときの息抜きで、子どもをないがしろにしているわけではないのに。それに納得がいかなくて」
仕事のためだけはなく、ママたちがプライベートを充実させるためのシッターサービスがあったっていい。そんな想いから、ベビー&キッズシッターサービス「mormor」が生まれました。
「たまには同僚と飲みに行きたい!」「カフェでのんびりお茶したい!」ーー「mormor」のウェブサイトでは、シッターサービスをママたちに利用してもらいたいシーンとして、「仕事」以外のさまざまな場面が並んでいます。その内容に話が及ぶと、鈴木さんの言葉にはさらに熱が帯びました。
「子どもがいるのに……と、眉をひそめる人もいるかもしれない。でも、ママたちがほんのちょっと息抜きができる時間があったっていいと思うんです。リフレッシュして感情のバランスが取れれば、自分に余裕が生まれて、家族や子どもにも優しくなれますよね。だから何と言われようと、ときには人の手を借りながら、仕事もプライベートも笑顔でエンジョイするママ、そしてそんなママの背中を見て育つ子どもたちが、1人でも増えることを大切にしたいんです」
起業初期こそは「ヒマだった」とのことですが、「mormor」の利用客は着実に増え、2年目に入るころには安定的に仕事が回せるようになったそうです。3年目に入って忙しくなった今でも、普段から、仕事と育児の間でバランスをとることを大事にされているのだとか。
「いちばん大切なのは自己管理。身体もそうですが、メンタルも大事ですよね。人間ですから、ずーっと走り続けるのはムリなんです。ストレスがたまって『ちょっとヤバいな』と思ったら息抜きのための予定を入れたり、今日は休んで子どもと遊ぼう!と決めたり。会社に勤めているとなかなか難しいかもしれませんが、それを自分の裁量でできるのが、ママプレナー®という働き方のいいところだと思っています」
現在、「mormor」に登録しているシッターさんの数は約80人。サービスの利用者も、月に300人を越えるそうです。しかし事業が軌道に乗り始めた今、鈴木さんはいわゆる「3年目の壁」と対峙しているのだといいます。
「現在、本部運営を手伝ってくれているスタッフが1人いるのですが、2人で一緒に日常業務に追われてしまっていて。未来に向けた新たな動きを進める余裕がなくなってしまっているので、これから本部運営を任せられるスタッフを育てることが目下の課題ですね」
鈴木さんは将来的に、「mormor」を、どんな事業に育てていこうとお考えなのでしょうか。「事業をはじめるときに、“やらないこと”をまず決めたんですよ。全国展開はしない、病児保育はしない、教育関連のサービスもやらないーーあれも、これもと手を広げすぎると、サービスのクオリティが維持できず、結局中途半端になってしまいますから。だから基本のコンセプトからブレないように、取捨選択しながらやっていこうと思っています」
そうした軸をもったうえで、「mormor」のベビー&キッズシッターサービスを、もっと多くの働くママたちに、いつでも気軽に使ってもらえるようにしたいのだそうです。
1人で自分の事業を運営しながら、幼少期のお子さんを育てるのは大変なこと。鈴木さんの場合は、旦那様がお仕事の関係で家を不在にしがち……という事情もあったそうです。
「夫はテレビ・映画関係の仕事をしているので、長いときは1か月くらい家を空けたりするんです。だから、夫婦で家事・育児を分担しようにも、物理的に難しくて。もちろん、家にいるときはできる範囲で協力してくれますけど、結婚当初から“やってもらえたらラッキー”くらいの感覚でいましたね。できないことを求めても仕方ないので」
そのため、頼れるときは茨城県の実家に子どもを長く預けたり、ご自分でもシッターサービスを利用したりして、うまくバランスをとっているのだといいます。
最後に、鈴木さんがひそかに計画しているという10年後のビジョンをおうかがいしました。
「10年後、ちょうど息子が高校生になるんですよね。そのタイミングで、一度海外に出てみたいと思っているんです。だから10年後を見据えながら、今の事業を広げたり、人を育てたりすることも視野に入れてやっていきたいと考えています!」
[編集部より]いきいきとした表情で、今のお仕事への熱い想い、お子さんのこと、これからの目標のことをお話くださった鈴木さん。お話をおうかがいしていてビシビシと感じたのは、一つひとつの言葉の"根っこ”にある強い意志と覚悟でした。経営者としても、ママとしても、筋の通った、1本の「ブレない軸」を持つこと。ママプレナー®であるために、それがどんなに大切なことかーー鈴木さんが、改めて気づかせてくれました。(Photo by Junko Sugai/Text by Yu Oshima)