30歳を過ぎてからの独立。 法人化の理由はクライアントの都合
「私、どうも思いついたらやっちゃうところがあって。そもそも人生設計ができないタイプなんですよね」と、笑いながら話してくれた高沖さん。2006年に株式会社ポーラスタァを設立したのも、さまざまな偶然が重なった結果なのだとか。
「起業するなんて、自分では全く考えていませんでした! もともと自己肯定感がすごく低いうえに、いろいろなことに不安を感じていて、会社員として定期的な収入がある方が安心だと思っていたんです。ときどき『独立すれば?』と声をかけてくれる人もいましたが、自分にはまるで関係ない話だと思い、全部スルーしていました。30歳を過ぎるまで、そう考えて生きていたんです」
しかし、雑誌やネット媒体の編集者・ライターとしての仕事は多忙を極めました。さらにご自身の中で仕事に対する疑問が芽生えはじめたのをきっかけに、思いきって会社を退職。しばらく海外でリフレッシュした後、ひとまずフリーランスとして仕事をはじめたのだそうです。
「初期の頃に声をかけてもらったクライアントに、法人としか付き合わないというルールがあって。ですから、何かやりたいことがあって起業したわけではなく、必要に迫られてという感じですね」
それでも、ご自身の気持ちには大きな変化があったといいます。
「そもそも会社って何だろう、私は何を成し遂げたいんだろう――法人化は、そんなことを改めて考えるいいきっかけになりました。今の会社のビジョンは、そのときに生まれました」
会社の経営を立て直すため、 パートナーと役割を大胆にチェンジ
株式会社ポーラスタァとして、パートナーと2人、新たな事業をスタートした高沖さん。1人目のお子さんを妊娠・出産したのは、それから3年後のことでした。それは会社にとっても、高沖さんにとっても大きな転機になったのだそうです。
「その頃、受託の仕事がそれなりに軌道に乗っていたので、そのままのモデルを続けていくことをイメージしていたんです。でもやはり、ひとりで好きなように働いていたときとは、状況がまるで変わってしまって」
はじめての育児に試行錯誤する日々。そしてそれは同時に、パートナーとの関係や、働き方も見直すことにつながっていきました。
「長男が8か月になるまでは、私が育児をして、仕事は夫にある程度任せていたんです。でもその間にいろいろなことがあり、会社がガタガタになってしまって……。それである日、私がプツンとキレまして(笑) 私が会社に戻るから、育児は全てあなたがやってくれ、と」
見事なまでの、完全な役割チェンジ。それからというもの、旦那様がいわゆる“主夫”のような形で家事・育児をするようになり、高沖さんご自身は会社の立て直しに奔走する毎日がはじまりました。
「どうしても、子育てとの両立には向かない仕事があるんですよね。ガンガン深夜に電話がかかってくるとか、急な打合せが入るとか……。まずはそういった仕事を、思いきって減らしていったんです。会社としては赤字が続いてしんどかったですし、立て直すのにすごく時間はかかりました。でも、結果的に理解のあるお客様が集まってくれるようになって、仕事をするうえでも、チームのような関係が築けるようになったんです」
家族にどんな生活が合っているか。 まずは「やってみる」ことが大切
受託の仕事とは別に、会社の新たな事業ブランドを確立することになったのが、マタニティ情報サイト「ニンプス」。このメディアは高沖さんが1人目のお子さんを妊娠したときにスタートしたそうで、ご本人いわく、「妊娠・出産をリアルタイムで追いながら、そのリアルな情報を発信できて、しかも上司の顔色をうかがわずに予算がとれるのは、今の日本に私しかいない!と思って(笑)」。
現在ポーラスタァでは、この「ニンプス」運営をはじめ、「女性の妊娠・出産」を軸とした事業を数多く展開しています。今の “チームメンバー”は8名。全員がママ・パパであり、それぞれが育児をしながら、自分らしい働き方を模索し、実践しているそうです。
「会社だからといって、全員が同じ働き方をする必要はないし、制度で縛らなくてもいい。一人ひとり違う、自由な働き方でいいんじゃないかと思っています。実現したいのは、やっぱり多様性。子育てをしていると特に、多様な選択肢があることで、楽になる人はたくさんいると思うんですよね」
代表である高沖さん自身も、2015年の春から、一家で長野県伊那市に移住。現在は長野と東京を行き来する、デュアルライフ(二拠点居住)をはじめたばかりです。
「こういう生活の仕方や働き方が自分たちに合っているかな、と思ったら、まずはちょっとやってみることですよね。そうすると、失われることと得られること、それが両方わかると思います。家族にとって多様な選択肢が増えていくのは、決して悪いことではないはず。だからこそ、会社の事業はもちろん、自分の生き方や働き方を通して、そうしたメッセージをこれからも発信し続けていきたいと思っています」
表面だけではなく、お互いのことを 根っこから理解し合える関係
お子さんが8か月のときに “役割チェンジ”をした高沖さんと旦那様。公私ともにパートナーであるおふたりの関係は、その後どうなっているのでしょうか?
「最初の頃は、もう本当に大変で。仕事でも、育児や家事のことでもよくケンカして、なんでこんなに、いろいろなことを一緒にやらなきゃいけないのか……と思っていました」と、高沖さん。その後、役割をチェンジし家事・育児をパートナーに託すにあたって、高沖さんが徹底していたのは「口を出さない」ということだったそうです。
「困ったときも自分で調べてなんとかして、と。私もそうでしたが、世の中のママもそうやって子育てしてるわけじゃないですか。ママだからできて、パパだからムリなんていうことは何もないはず。だからうちの夫の場合も、はじめは困ったと思いますけど、なんとか自分で模索しながらやっていました。たまに『えっ、これ食べさせて大丈夫?』みたいな離乳食が置いてあったりするんですけど(笑) ぐっとガマンして、口は出さない。そうした舵取りから任せていましたね」
その甲斐あって、いつしか旦那様も一通りの家事・育児スキルを習得。そこからはお互い少しずつ、仕事と家庭のバランスが取れるようになったのだとか。
「仕事の大変さ、育児のしんどさ。それを双方が経験したので、不満は出にくくなりましたね。お互いがどれだけがんばっているのかを、表面的なことではなく、本当にわかりあえているというか。生活でも、仕事でも、いろいろなことを分かち合える。その楽しさを、今ようやく感じられるようになった気がします」