育休明けに待っていたのは、まさかの起業への誘い
「自分で会社をやらないか?」ーーそれは小川さんにとって、まさに晴天の霹靂ともいえるできごとでした。小さなゲーム制作会社に在籍していた時代。結婚・出産を経て、いざ復職しようとしていた矢先のことだったそうです。
「在籍していた会社の社長が、社員にもどんどん独立をすすめる人だったんです。でも私は子どもがかわいくて、育休をもっと伸ばそうかな、なんて思っていたくらいで(笑) その話をするつもりで社長に会いに行ったら、突然『独立しないか』と。一瞬、何を言われているのかわからなかったですね。私はもともと、仕事をバリバリこなして登りつめたい!というタイプではなく、社会とはちゃんと関わりつつも、できれば心地よく生きていきたいという気持ちの方が強かったんです」
起業なんて絶対あり得ない。はじめはそう思っていた小川さんでしたが、独立元となる会社からの手厚いサポートや、現・共同代表である田中辰徳さんからの誘い、周りからの後押しを受けて、少しずつ気持ちが傾いていき……。
「だんだん、こんな機会はもう私の人生で二度とないかも、なんて思ってしまって。さらに、思い切ってそのくらい振り切ってしまった方が、かえってマイペースに生きていける可能性が高いかもしれない、と感じるようになったんです」
育児と起業を完全同時進行。不安を抱えながら、一歩ずつ前へ
まさか自分が会社をやるなんて、というところから事態は急展開。育休明けとなったその年(2008年)の9月、共同代表となる田中さんと2人で、小川さんは株式会社ニコラボを設立。ママプレナー®としてのキャリアをスタートすることになりました。
「思い切って起業してみたものの、お給料をもらっていた立場から急変したわけですからね。突然怖くなってしまって『どうしよう……』と不安に駆られた時期もありました。本当に続けていけるのか、と。子どももまだ小さくて病気ばかりしていたので、最初の1年は会社に行けない日もかなりあったんです。このままでは子どもにも、共同代表にも申し訳ないと思っていました。実際、彼(共同代表の田中さん)の方に負担がかかってしまい、大変だったと思います」
復職と同時の起業は、想像以上に困難でした。しかし子育てのステージが変わっていくにつれて、少しずつ仕事と生活のペースができていったようです。
「2〜3年すると子どもが保育園に慣れて、生活もようやく安定してきました。仕事でも、自分たちがやりたい企画を、実際に形にしていける楽しさに気づいたんですよね。能動的に自分から動ける環境のありがたさを感じるようになった、というか。会社員時代は、やはりそれがなかなか難しかったですから。ごく少人数の会社だったので、経営についてもだんだん『なんとかなる!』と思えるようになりました」
自分たちのペースを守りながら、 さらに視野を広げていきたい
「あまり、会社を経営してきた!という意識はないんですよね」と、飄々と語る小川さんですが、気づけば会社を設立して8年。現在は4名のメンバー、そしてアウトソーシングのスタッフも交えながら、さまざまなゲーム商品のプランニング・開発に携わっていらっしゃいます。お子さんも9歳になり、仕事も生活も、自分たちのペースができてきたのだそうです。
「今振り返ってみると、自分でイニシアチブを取り、仕事と家庭の環境を整えていくというのは、意外といい方法だったかもしれないと思いますね。会社の制度に頼るのではなくて」
そして生活が落ち着いてきた今だからこそ、取り組んでいきたいことがあるのだとか。
「私の場合は子育てと起業が同時だったので、正直なところ、仕事をわーっと勢いでドタバタやってきてしまったところがあるんです。だから会社を経営すること、事業運営についてもっと勉強していきたいと思っているんです。自分の会社だけでやっていると、少人数ということもあって、どうしても視野が狭くなってしまう。だからこれからは、もっといろいろな人に会いにいって情報交換をしたいと思っています。積極的に外に出て、さまざまな事業の可能性を探っていきたいですね」
家族それぞれが自立した、「共同生活」のような感覚
育休から復職すると思っていたタイミングで、まさかの起業ーーご本人も驚きの展開だったと思いますが、ご家族の反応はどうだったのでしょうか。
「起業することに対し、夫からは特にノーコメントでした(笑) お母さんがもともと事業をやっていたこともあり、むしろ妻にも働いてほしいと思っていたようです。でも『働け!』という感じでもなく、好きにすればいいよ、という感じでした」
小川さんの旦那様は、実は日本人とアメリカ人のハーフで、アメリカ育ち。育ってきた環境や文化の影響もあるのか、家事や育児にも協力的なのだそうです。
「家事や育児に対して『男がこれをやるの?』みたいに言われたことは一度もないですね。文化の違いなのかわかりませんが、むしろ育児を精一杯楽しもうとする意識を感じます。娘も大きくなってきたので、私がお世話しているという感じはなく、3人で共同生活を送っているような感覚に近いかも。子どものために自分を犠牲にして……というのではなく、家族それぞれが自分の楽しみを見つけて、それをイキイキと実現できるのがいちばんだと思っています」