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有限会社モーハウス代表/光畑由佳さんに聞きました

働くママのための授乳服

働くママのための授乳服

授乳していることがわからない『授乳服』を通して、お母さんたちや社会が持つ「母親はガマンして当たりまえ」「迷惑をかけてはいけない」という思い込みや、ライフスタイルを変える提案をし続けている光畑さん。子連れ出勤もその提案の一つのカタチだ、といいます。

事業を始めた原点、そして子育てをしながら、事業を続けた体験から得た知見や、今後に向けた目標について伺いました。

 

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Profile

光畑由佳さん(Yuka Mitsuhata)

美術企画・編集者を経て、1997年に自身の電車内での授乳体験をきっかけに、社会と子育てをつなぐ環境として、授乳服を考案。社会と授乳、公共空間での授乳について、継続して発信している。自社で実践する「子連れワークスタイル」は国内外から注目され、女性のチャレンジ賞など受賞歴多数。2014年北京で、2016年ペルーでの「APEC女性と経済フォーラム」に日本代表の一人としてスピーカーをつとめた。NPO子連れスタイル推進協会代表理事。茨城大学社会連携センター特命教授。

■公式サイト

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洋服は『メディア』だと思っています

 

― モーハウスを起ち上げるきっかけとなった体験について、教えていただけますか?

3人子どもがいるのですが、2人目を産んで1ヵ月検診後、すぐに子連れで外出しました。ずっと仕事をしてきていたので、家に閉じこもっているのがつらくて……。

実は、一番上の子の妊娠中にトラブルがあって、安静にしていなくてはならなくて。鬱みたいになってしまったので、2人目の産後も同じことが起こったら……と思い、不安だったんです。ただ出かけることに頭がいっぱいで、子どもが泣くことに備えられていなかった。

電車の中で泣いてしまって「どうしよう?」と。周りにも迷惑だし、赤ちゃんも不快だから泣いている。最終的に、電車の中で授乳をしたのが原点になっています。

― そんな体験をされたんですね。事業内容は授乳服・アパレル以外、他にどんなことをされていらっしゃいますか?

基本的にはアパレルなんですが、実は洋服屋さんをやりたかったわけではないんです。

私は洋服は『メディア』だと思っています。

この「授乳服」というメディアを通して、これを着ることで、母親が「我慢しなきゃいけない」「外に出ちゃいけない」「迷惑かけちゃいけない」というライフスタイルが、変容することを伝えたいんです。自分自身が着た時にもそう感じましたし、買ってくださった方々も同じことをおっしゃたので、伝えていきたいなと思っています。

― そういう意味で「洋服」がメディアだというのは納得ですね。

女性の産後のライフスタイルを変えたい』という事もそうなんですが、ワーキングママや、自分で仕事を起ち上げている人を、応援したいという気持ちもすごくあります。

「1人で資金もないのに会社を起ち上げるの大変でしょ?」って言われることが多いのですが、私自身は全然大変だと思ってなくて(笑)。東京の会社でずっと働いてきた人にそう聞かれると、「いやいやみなさんの方がずっと大変ですよ!」って思います。

確かに最終的に自分で責任を負わなくてはいけないし、給料は出ないかもしれない。借金を背負わなくちゃいけないかもしれない。でも“自分で自分の働き方がハンドリングできる”、私にとってはそちらの方が、楽だった。

特に女性に関しては「選択肢としてこういう働き方もありますよ」という事を、伝えたい想いが、モーハウスを起ち上げた頃からずっとあります。

― 子連れ出勤もその「選択肢」「働き方」の一つですね。

とてもナチュラルな流れだったんです。起ち上げ当初から、普通に赤ちゃんを連れて出勤して、授乳しながらみんな働いていました。自分自身も赤ちゃんがいたし、手伝ってくれる人たちにも赤ちゃんがいて、想いに共感して手伝うよって言ってくれていたので。

一方、メディアとして「子連れ出勤」している姿を見ることで意識が変わり、社会も変わると言う想いがあり、これを伝え続けていきたいとも考えています。

最近は子連れ出勤を広めていきたいということで、見学会を開いたり、会社で導入される場合の、コンサルティングもしています。

― 子連れ出勤もノウハウになっているんですね。

事例として多いわけではないのですが。まだまだ子連れ出勤の持つ可能性に気づいていない会社も多いと思います。

洋服は『メディア』だと思っています

一秒でも早く授乳できるように

 

― 最近の授乳服ではどんなものが流行っているのでしょうか?

もともとは、いわゆる『授乳服』が日本になかったので、作り始めたのがきっかけなんです。当時は誰も『授乳服』と言うモノを知らなくて。モーハウスの授乳服は、授乳しても分からないように作られているんです。

― 普通にくっついているようにしかみえないですね。

そうなんです。うちの授乳服は授乳用のケープはいらないし、絶対見えないように作ってあります。チャックやボタンがサイドにないので、赤ちゃんもすぐ飲めます。

ですが、おそらく8年程前から、洋服の前をただ開ける授乳服が出てきました。今、世の中の一般常識で『授乳服』というと、見えてしまう授乳服だと思っている方がほとんどです。

私が電車の中で体験したように「一秒でも早く授乳しなくちゃいけない。ケープを巻くまで待てない。泣けば泣くほど、赤ちゃんはちゃんと飲めなくなる」そんな状況のために、この授乳服を作ったんです。

― お洋服をつくられた経験はあったんですか?

一応、一通りは習ってはいました。修学旅行前にかわいい服がないから、自分で作ったんですが、簡単なパターンのものしか作ったことはなかったです。型から起こしてっていうのも、すっかり忘れちゃっていました。なので、最初に入社してもらったのは、パタンナーさんだったかもしれないですね。

最初はカレンダーの裏をガラス戸においてうつして……というところから始めたんです。開業資金5000円でしたから(笑)。

まだインターネットもない時代だったので、カタログを作るのにも、写真をフィルムでとって現像して、雑誌を作るように作っていた。それをコンビニでコピーして送っていたんです。セブンイレブンにカラーコピーが入ったときは、大喜びしたんですよ!

― そこで資金をためて出店しようという思いがあったのでしょうか?

最初、店舗を出すことが特に目的ではなかったんです。

「いつかはお店を出せるといいね」と、スタッフは言っていたのですが、私はそこまでの気持ちはなかった。ですが、間取りを見るのが好きなので(笑)、探すだけ探そうかなと思って物件を見ていたら、あっという間によい物件が見つかってしまいました。

― そこから表参道にお店出されていらしゃいますよね。

最初は『雑誌の特集号』を出しました、みたいな感覚でお店をスタートしたんです。2年でやめるつもりでした。

ですが、オープニングパーティーに来てくれたマスコミの友人に、「2年くらいのポップアップショップと思ってるんだよね」と言ったら、「なーんだ」と言われてしまったんです。期限が決まってるポップアップショップだけで終わると、世間からのとらえられかたが違うな、という事を感じ、お店を続けることにしました。場所は変わりましたけれど、表参道に出店をして、今年で13年になります。

一秒でも早く授乳できるように

とりあえず歩きながら考えましょう

 

― 事業をされてきて、ご自身と向き合う中で、なにか新しい発見はありましたか?

そうですね。私自身は何も得意じゃなくて、基本的になにもできません。服も私が縫ったものは絶対売れないし、売り物にできません(笑)。何もできないからこそ、最初から人の力を借りていた。

縫えないなら洋裁学校に通って、好きを仕事にするという選択肢も、もちろんあると思います。ですが、それができないから「なにも始めらない」ということにはならないと思うんです。

「『できる』ようになるまで『できない』」というのは、言い訳なんじゃないか、と。何もできないけど、それでもできることはあるよね、といつも伝えています。

― 自分にはできないけれど、全体像は見えているということでしょうか?

大きな絵や全体像を描くのも、実はすぐできることじゃないんですよね。

時々『ミツハタ流講座』を開いていて、参加された方にいつもお伝えするのが、「とりあえず歩きながら考えましょう」という事です。「ビジネスプランを考えながら、とりあえず前に進みましょう」と。

女性の場合は扶養に入っている方もいるので、チャレンジがしやすいですよね。動いてみてまず一歩でも前に出て点を打つ、線を引くをしていったら、その点と線をつないでいって、絵が見えてきやすいんじゃないかと思うんです。

― 子育てをしながら事業をされていて、つらかったことなどはありますか?

『授乳服』って、なかなか売れないんですよ。一番理解してもらえないのが、お母さんだったりすることがあります。こちらとしてはすごくよいものを作って、着るだけで本当に気持ちが解放されるいいものを用意したよと思っていても、受け入れてもらえない。

「だって、子どもが小さいうちは我慢して当たり前じゃない」と言われることが、残念ですね。

それでも商品を買った方からお礼の手紙が来たり、産後ウツだった方が元気になったなど、これだけ人が変われるっていう事にやりがいを感じて、「もうちょっと続けようかな」と。

とりあえず歩きながら考えましょう

『授乳服』と『八丁味噌』

 

― 今後に向けての目標はありますか?

そうですね。2つあります。

1つ目は、現状『授乳服』という言葉自体が、他のものを指すようにになってしまっている。ケープがないと使えない服。その認識を変えたいと思っています。

先日、服部料理学校の服部先生から八丁味噌のお話を伺いました。

本当の八丁味噌屋さんは、実は日本にもう2,3軒しかなくて、『八丁味噌』を数ヶ月かけて丁寧に作っている。ですが、巷には色々な添加物を入れて数週間で作ったものを、「八丁味噌です」と言って売っている会社が溢れているんだそうです。「あれを八丁味噌と言われちゃうと我々の立場がない」そんなお話しだったんです。

『授乳服』の現状と似ているな、と(笑)。

本当に良い『授乳服』を使ってもらえたら、子育ての苦しさを埋めるためのものだけじゃなく、真逆になるんですよね。マイナス100だと思っていたたものが、プラス100になる。天地がひっくりかえるくらいの、価値観の変化があるはずです。そうした子育てがあるということを、体験してもらうことを通じて、『授乳服』の良さを伝え続けていきたいです。

2つ目としては、子連れ出勤についてです。認知されて、少しづつ広がってきていますが、伝え方ややり方を間違うと、危ういなと思うところがあります。

下手をすると、大きい子を連れて来て、会社でずっとビデオ見せていて……という事になりかねない。「(会社に)子どもが居ますけど、それがなにか?」と言うような、子どもがいない人にもナチュラルに受け入れられて、会社にメリットがある子連れ出勤という場の作り方を、伝えられるといいなと思っています。

― 最後にぜひママプレナーズ読者のみなさんにメッセージを。

「とりあえずやってみたら」ですかね(笑)。

あと、赤ちゃんを産んだタイミングで「起業」とか「働き方を変える」って方は多いと思いますが、母乳は絶対武器になるので、上手に使ってもらいたいです。今度母乳の専門家の先生たちと、『母乳はなんたって続ける方が楽だった』というタイトルの講演会を開催するのですが、おっぱいは強力ツールですので、上手に使ってほしいです。

 


■光畑由佳さんの著作

「働くママが日本を救う~子連れ出勤という働き方」(マイコミ新書,2009)

Interview by Yuka Yanagisawa/Text by Azumi Nozaki

Mompreneurs Network Japan

Writer

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