全員が在宅勤務の会社----ファイブテクノロジー株式会社(ITサービス業/東京都中央区)
台風が過ぎ、東京中がうだるような暑さに覆われはじめた7月某日。東京都中央区、日本橋のとあるレストランに、8人の男女が集まりました。和気あいあいとした雰囲気で雑談を交わし合っているのは、ファイブテクノロジー株式会社(ITサービス業/東京都中央区)で働く社員のみなさん。同社は、企業向けにクラウドのオンラインストレージサービスなどを開発・提供している会社です。その日は2か月に1度開かれるという、社員全員が集まる会食の日でした。
実はみなさん、いつもは同じ勤務地で働いているわけではないのです。東京を中心にして、埼玉、千葉、福島、長野……そう、この会社の経営スタイルは「社員全員が在宅勤務をする」というもの。男女関係なく、みなさんがそれぞれのご自宅で、自分に可能なペースで仕事をしているのだといいます。このようなスタイルで経営を行っている理由とはーー? 今回は図々しくも、みなさんが集う会食に同席させていただき、お話をうかがってきました。
[取材協力]ファイブテクノロジー株式会社
「いつでも家にいられる」という安心感の大きさ
はじめに、社員のみなさんが在宅勤務を選択した理由と、日々どんなスタイルで働かれているのかを質問してみました。
まずは、この会社で最初の在宅ワーカーになったというAさん(女性/埼玉県在住)。3人のお子さんがいらっしゃるAさんは、第1子出産をきっかけに在宅勤務を選択し、依頼17年にわたってご自宅で仕事を続けているのだそうです。
「やはり業界的に忙しいこともあり、最初妊娠したときは仕事を辞めざるを得ないかなと思っていたんですよね。でも、登坂さん(代表)に在宅勤務をすすめられて。子どもが成長したら通常勤務に戻すつもりでしたが、いつのまにか子どもも3人になり、結局ずっと在宅で仕事をしています。
子どもたちを保育園や学校に送り出し、平日は夕方までみっちり自宅で仕事をしています。ただ、用事があるときはフレキシブルに対応できるので、学校の役員なんかもやっていますよ。家事は手抜きし放題ですけど(笑) 子どもたちが帰ってきたときに、私がいつも家にいられるという安心感は大きいですね」
そして、遠方に住む社員であるBさん(女性/長野県在住)。もともとは東京の会社でバリバリ働いていたというBさんは、お母様の介護のため、3年前に地元・長野県に戻られたそうです。
「一度は地元の企業に就職したのですが、仕事が忙しすぎて、全く母の近くにいられなかったんです。これでは戻ってきた意味がないーーそう考えたときに、たまたま知人がファイブテクノロジーを紹介してくれて。
正直、最初は戸惑いもありましたね。在宅勤務だから、会社の空気のようなものがわからないので……。1年くらい試行錯誤しながら在宅で仕事をしてみて、ようやく慣れてきました。でも、やはり母の介護を優先できること、何かあったときに駆けつけられるのはとても助かります」
男性も、子育てのために在宅勤務を選べる
会社の中核を担っているCさん(男性/埼玉県在住)も、例外なく在宅勤務です。もともとはフルタイムで働いていたそうですが、1人目の娘さんが1歳のときに、奥様が双子を妊娠。それをサポートするために、週2回の在宅勤務をはじめたのだとか。さらに娘さんが小学校に上がったのを機に、現在は週1回だけ会社に顔を出し、それ以外は在宅でお仕事をされています。
「小学生は毎日15時前に帰宅するので、学童に入れない場合は夫婦どちらかが面倒をみなければなりません。でも、私が在宅勤務を選べば、妻が仕事を辞めなくても対応できるんですよね。
さらに、通勤時間がなくなるのは大きいんですよ。子どもが出かける前に一緒に食事もできるし、子どもがいつ帰ってきても私が家にいるわけですから。子どもが家にいる時間全てに関わっていられるというのは、得難い経験です。妻も私も、こうした働き方ができて本当に感謝しています」
優秀な社員に「働き続けてもらう」ための在宅勤務
このように、ファイブテクノロジーで働く社員の方は、子育てや介護など、さまざまな事情を抱えている方がほとんどです。いわゆる「週5日、フルタイムの会社勤め」をすることは難しいけれど、スキルや技術を持っていて、実務経験も豊富な、優秀な社員の方々。
代表の登坂忍さんは、在宅勤務を会社の「経営スタイル」として位置づけ、推奨してきた理由について、こう話してくれました。
「私は何も、在宅勤務をむやみにすすめてきたわけではありません。たまたま、優秀でずっと働いてほしいと思っていた社員に、それぞれ事情があったというだけです。結婚して田舎に行く、子どもが生まれる、介護がある……それでも、しっかりと仕事をしてくれる人、責任を全うしてくれる人には、できるだけ長く働いてもらいたいじゃないですか。『とにかく辞めないでほしい』ということ。他でもない、それが何よりの理由です」