多世代交流の拠点「いろむすびcafe」をたずねる
今回の取材は、ぼうださんがアドバイザーを務める「いろむすびcafe」(東京都北区)で行なわれました。このカフェのコンセプトは“多世代交流”。店舗が入っている施設「コトニア赤羽」内にはデイサービスセンターや保育園などが軒を連ねており、乳幼児から高齢の方まで、多くの世代の人たちが行き交う場所になっています。
このカフェで、ぼうださんは定期的にママ向けの子育て講座を開催されています。この日も小さなお子さんを抱いたママたちがぼうださんを囲むように座り、そのお話に耳を傾けていました。散歩の仕方についてお話を聞いた後、実際にみんなで町へ出て実践。そしてカフェに帰ってくると、みんなで食卓を囲んでランチの時間です。
「家で子どもとふたりきりだと、なかなかできないこともあるんですよね」と、8か月になるお子さんと一緒に参加していたひとりのママが話してくれました。このカフェには子ども連れのママたちが集うため、お互い協力しながら食事をとったり、手芸などの作業をしたり、仕事をしたりすることもできるそうです。
▲この日は赤ちゃん用の「背守り」をつくっている女性が。家で針を使うのは危ないので、ここに来たときに手芸を楽しんでいるそう。
子どもたちがのびのび遊ぶ姿を眺めながら、デイサービスセンターに通うおじいちゃん・おばあちゃんたちともニコニコと笑顔であいさつを交わし、世間話をしたり、悩みを相談したり……そんなふれあいを自然に生み出す環境が、そこにはありました。
子どもが広い世代と交流するチャンスは、親が意識しないと生まれない
― このカフェはまさに「多世代交流」を実践されていますね。
そうですね。今はなかなか、こうして高齢の方と子育て世代の方、そして子どもたちが自由にふれあう機会なんてないですよね。
― ぼうださんはこうした多世代交流のほか、「孫育て」をキーワードにみずからNPOを立ち上げて活動していらっしゃいますが、なぜそこに注目したのですか?
祖父母世代の子育てと現代の子育ての方法が変わり、いろいろなところでトラブルが起こっていたんです。その予防のために、祖父母たちに現代の子育ての情報を届ければ、みんながハッピーになれるかもと思いました。
もともと私は子どもの頃、近所にあったテニスクラブのクラブハウスを遊び場にしていたんですね。そこは小学生から90歳近いお年寄りまで、とにかくあらゆる世代の人が日常的に集まっている場所だったんです。そこでいろいろな人と交流しながら、「分け隔てなく接する」ということを自然と覚えていきました。自宅でも、祖母とずっと同居していましたしね。
後になって振り返ったときに、あの頃、地域のお年寄りと接するなかで学んだことや、祖母と一緒に住んでいたからこそできた経験がたくさんあることに気づきました。でも自分が子どもを生んだときには、もう地域のつながりは希薄になっていて……。私が意識して機会をつくらないと、子どもたちに私がしてきたような経験をさせてあげられないんだな、と痛切に感じたんです。
― 今はおじいちゃん、おばあちゃんと離れて住んでいる家族も多いですしね。
そう。子どもたちは両親の背中を見て育つものですが、祖父母はちょっとちがう。正面から愛情を注いでくれる、特別な存在なんです。でも子どもたちにそういう存在を持たせてあげられるかどうかは、母親がどう立ちふるまうかによって変わってきてしまうと思います。
子どもを祖父母に預けることを「当たり前」だと思わない
― 母親の立ちふるまい、というのはどういうことでしょうか?
今、政府の方針が「女性活躍推進」に向いているため、子育ての手が足りないところは祖父母でカバーしよう……というような方向にどんどん傾いていますよね。でも「家族だから、親なんだからそれが当たり前」という考え方を持ってしまうのは、政府も、子育て世代もまちがっていると思うんです。
決して、祖父母を頼ってはいけないということではありません。頼れるなら、遠慮なく頼るべきだと思います。ただし、絶対に忘れてはいけないのが「ありがとう」という感謝の気持ち。しかも、それを心の中で思っているだけではダメですよ。
「お父さん、お母さんがサポートしてくれるから、私は仕事ができているよ。ありがとう」と、必ず具体的な言葉を添えて伝え続けなきゃ。
面と向かって伝えづらいなら、手紙だっていい。家族だから、言わなくてもわかってくれる……という考え方がいちばん大きなまちがいなんです。「当たり前」になってしまうことが、何よりも恐ろしいことですから。
― 確かに家族だからこそ、当たり前と思ってしまいがちかもしれません。
自分や夫の両親を敵にするか、味方にするかは母親次第。味方になってくれたら、こんなに心強い存在はいませんからね。そこは、冷静になって考えて行動した方がいいと思いますよ。
▲家族だからこそ言葉で伝えることが大切……と話すぼうださん。
祖父母側も、「孫育て」にさまざまな不安を抱えている
― 実際、祖父母に子どもを預けるとき、どんなことに注意すべきでしょうか?
注意というより、祖父母側もいろいろな不安を抱えていることを理解してほしいと思います。私も自分が子育てしていたときは気づきませんでしたが、例えば高い熱があって具合が悪いときに、いちばん近くにいてほしいお父さん・お母さんがいない……というのは、小さい子どもにとっては非常事態なんです。そういう状態の子どもを、いきなり祖父母が預かるわけですよ。それは想像以上に大変なことです。
― そうですよね……!
それから、子どもが少しでも大きくなれば預けても大丈夫、と思っているママたちもいますが、逆なんです。お世話が楽なのは、ハイハイをする前まで! 歩いて動き回るようになったら大変です。子どもが成長するのに反比例して、祖父母は同じぶんだけ歳を取り、体力が落ちていくわけですから。その事実は、心のどこかに留めておいてほしいですね。
― よく考えればその通りですよね。なかなかそこまで思いやれないことが多いかもしれません。
さらにいうと、子育てに関しては「経験者だから大丈夫でしょう」という気持ちもありますよね。でもよく考えてみてください。祖父母世代が実際に子育てをしていたのは、30年以上前の話です。細かいことなんてみんな忘れていますよ。だから孫を預かるときに、本当に自分たちが役に立つのか、きちんと面倒を見られるかどうか、ものすごく不安を感じている人が多いんです。
子どもには、4人の祖父母から愛情を受ける権利がある
― だからこそ感謝の言葉とともに、「助かっています!」ということをきちんと伝えるのが大切なんですね。
そうです。あとは実際子どもを預けるときに、危険なことや注意すべきことを具体的に伝えてあげること。一緒に住んでいるならまだしも、離れて暮らす祖父母は、子どもの成長を間近で見ているわけではありません。ここでも「経験者なんだから察して」という態度ではダメです。
例えば「もうハイハイをはじめている」とか、「床から何センチのところまでは手が届いてしまう」とかね。そういうことがあらかじめわかっていれば、不安な要素が具体化され、事前に準備できますから。パパ・ママが一緒なら、まず先に家の中をチェックすることをすすめていますね。
そんな些細なこと……と思うかもしれませんが、こういうちょっとしたことで、関係性が良くなったり、逆に悪くなったりするものなんです。
― 親がうまく立ちふるまうべき、というのはそういう部分なんですね。
子どもたちは祖父母とすごす時間のなかで、両親と一緒にいるだけでは絶対にできない経験を重ねていきます。それが子どもにとってマイナスになるかプラスになるかは、すぐに親が判断できることではありません。でも確かに言えるのは、子どもにとってムダな経験などひとつもないということです。
祖父母が孫にあたえる愛情と、親が子どもに注ぐ愛情は似て非なるもの。小さな子どもたちには、両親だけではなく、4人の祖父母から愛情をもらう権利があります。それを「あの人たちの考えは古いから」とか、自分たちとうまくいっていないから……などという理由で奪ってしまうのは大人のエゴにすぎないと思うんですよね。
仕事で忙しいから仕方なく預ける……と思わずに、子どもたちにさまざまな経験をさせるためにも、自分たちから積極的に、祖父母とふれあえる環境や機会をつくってほしいと思います。
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■NPO法人孫育て・ニッポン
http://www.magosodate-nippon.org/
核家族化、地域のつながりの希薄化が進む現代社会の中で、母親だけが子育てを抱え込まないですむよう、「祖父母力」に着目して活動をスタート。さまざまな世代の、家族や地域の人たちが協力し合って子育てができる社会を目指している。祖父母向けの「孫育て講座」などをはじめとする講座・イベントを毎月行なっているほか、子育てに関するさまざまなプロジェクトを展開中。
■取材協力:いろむすびcafe(東京都北区/コトニア赤羽内)
「0歳から100歳まで、誰もが自分らしく、彩り豊かな人生を歩み、協創する社会」という理念を掲げる、NPO法人彩結び(いろむすび)が運営。同施設内にデイケアセンターや保育園などがあり、多世代交流が行なわれるコミュニティとなっている。店内では、無農薬・有機栽培・生産者さんの顔の見える食材などを使用した「おうちごはん」を提供。子どもをキッズスペースで遊ばせながら、大人はゆっくりと食事を楽しむことができる。
フリーWi-Fiや電源も完備しており、打合せやパソコンワークも可能。カフェ内スペースにて、子育て世代に向けたさまざまなイベントやセミナー、講座などを多数実施している。