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ココロの声を、聞いていますか?[連載第3回]

ムリをしすぎて「小さな疲労」を蓄積しないために | ココロの声を、聞いていますか?[第3回]

ムリをしすぎて「小さな疲労」を蓄積しないために | ココロの声を、聞いていますか?[第3回]

 

みなさまこんにちは! 臨床心理士の北嶋尚子と申します。

臨床心理士の資格を取得して、早10数年がたちました。一児の母になった今も、カウンセラーとして仕事を続けています。母として、妻として、職業人として……自分自身の経験を通して知った、さまざまな心理学の知識やストレスへの対処法、コミュニケーションのコツなど――日常のふとしたシーンで役立てるヒントを、身近なエピソードをまじえながらご紹介していきたいと思います。ママプレナー®としてがんばっている方をはじめ、みなさまの毎日をよりいきいきと、充実したものにするための一助になれば幸いです。

 

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「どうしたら、もっとちゃんと仕事と家庭を両立できるのでしょうか?」

働くママのなかには、子育ても仕事もがんばりすぎてしまい、気づかないうちにムリが蓄積してしまっている人がとても多いです。がんばる気持ちは、「ゴム」と同じ。強い力で引っぱり続けたゴムは、やがて元に戻らなくなり、ひどい時には切れてしまうこともあります。ムリをしすぎて、体調を崩したり、病気になってしまっては本末転倒です。日頃から、十分に気をつけて生活していきましょう。

今回は、がんばりすぎてしまったママのひとり、Bさんの事例を紹介します。

 


 

Bさんは、夫と2人の娘の4人家族。夫婦は共働きです。Bさんは、ある時期から自分の仕事量が増えて、とても忙しくなりました。夫は残業で帰りが遅くなることが多く、育児や家事についての協力はもともと期待していませんでした。

Bさんはこれまで、職場のスタッフと雑談をしながら仕事をしたり、昼休みに何人かでランチしに行ったりしていました。しかし、忙しくなってからは雑談をする時間もなくなり、昼休みも食事をしながら作業を続けるなど、ひたすらパソコンに向かって仕事をし続けていました。

育児についても、まだ下の娘が保育園に通っているので、Bさんは仕事が終わると走るように会社を出てお迎えに行きます。帰宅してからも、休む暇なく娘たちの世話をし、家のことを次々とこなしていく毎日でした。

Bさんのこうした日々のがんばりによって、夫婦の仕事が忙しくなってからも、何とかこれまでどおりの育児と家事のレベルを維持することができていました。しかしあるときから、徐々にBさんは「うまくいかない」と感じ始めるようになったそうです。

夕飯作りや、部屋の片付け。毎日の家事が億劫に感じられるようになったり、気持ちに余裕がなくなって子どもたちにじっくり向き合えず、イライラして怒鳴りつけてしまったりして、「自分ってなんてダメな母親なんだろう」「他の人はもっとうまくやっているのに、どうして自分はちゃんとできないのだろう」と考えて落ち込むことが増えました。

 

悩んだBさんは、カウンセラーを訪ねました。そして、こう質問したのです。

「どうしたら、もっとちゃんと仕事と家庭を両立できるのでしょうか?」

 


 

Bさんはすでに十分頑張っていて、むしろムリをしすぎているのは一目瞭然。でも、Bさんは「もっとがんばるため」の助言を求めて、カウンセリングに訪れたのです。

 


 

「がんばりすぎ」の自分の状態を、見極めるサインとは

カウンセラーはまず、Bさんに「これまでずっと負荷の高い状態で大変でしたね。よくがんばってこられましたね。」と労いの言葉をかけました。そして、ムリをしすぎていて、疲労が蓄積しているサインが多く出ていることを伝え、自覚してもらえるよう説明をしました。

Bさんの中でこれまでのがんばりは「当たり前のこと」であって、大したことではないと捉えていたようです。

しかしカウンセラーが睡眠や食欲について確認すると、「最近は食欲もないし、寝付きが悪くて夜中も目が覚めて寝た気がしない。確かに疲れがたまっているのかもしれない」と、ようやく自分の状態に気づくことができました。

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続いて、意識的に「仕事や家事をしない時間」「自分だけの息抜きの時間」を作って、エネルギーをチャージすることを勧めました。Bさんは昼休みに仕事をするのをやめて、一人でランチをしたり、好きな小説を読んだりしてみようというアイデアを出してくれました。カウンセラーからも、根を詰めて仕事をした日にはそのまま帰宅するのではなく、10分でも良いので、カフェでコーヒーを飲んでぼーっとしてから帰ることを提案しました。

また、家事・育児については、忙しい時にはエネルギーの配分を考えて、意識的に手抜きをすることを勧めました。例えば、夕飯をレトルトやお惣菜にして、ゆっくり娘さんたちと話をしながら食事をする、平日は家のそうじはしないと決めてしまう、などです。

話をしていくと、Bさんは常に「仕事も家事・育児も完璧にやらなければいけない」「自分ががんばりさえすれば達成できるはず」「できないのは自分の努力と能力が足りないせいだ」と考えていたことに気づきました。

カウンセラーが「親しい友人がBさんと同じような状態にあったらどう声をかけてあげますか?」と質問すると、「がんばりすぎで体が心配。そんなにムリしないでも十分役割は果たせているから、時には手を抜いてゆっくりしてと伝えたい。人のことだと冷静に考えられますね」と言っていました。

 

Bさんのように、気づかないうちにムリを重ねて、疲弊してしまうママはとても多いです。 そうならないためにも、自分自身のカラダやココロのサインを見逃さないようにしてあげてください。

 


 

 

疲労が蓄積しているときのサインにはどんなものがあるのか?

疲労が蓄積すると、気持ちや身体の状態、生活パターンなどにいつもとは違う変化が出てきます。いつもとは違う感じが出て来たら、無理をし過ぎて疲労が蓄積しているというサインですので、すみやかに対処をしましょう。次のようなサインが現れやすくなります。

 

【気分】憂うつ、何をしても楽しくない、気力が出ない、イライラする

【行動】人と付き合うのが億劫になる、閉じこもりがちになる、声が小さくなる

 

【身体反応】

睡眠障害:寝付きが悪くなる、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める、朝なかなか起きられない、など

食欲の障害:食欲がない、何を食べてもおいしいと感じられない、つい食べ物に手が伸びて食べ過ぎてしまう、など

原因不明の体調の悪さが続く:頭痛、腰痛、胃の具合が悪い、下痢や便秘を繰り返す、めまい、息切れなど

 

【思考】悲観的に考える、将来に対して悲観的になる、集中力が低下する、集中できずに雑念が浮かんでくる、仕事がはかどらない、物忘れが気になる、判断力が低下する、ものごとをすぐに判断できない、ちょっとしたことで判断に迷う

 

このような症状が2週間以上続く場合、うつ病の可能性も出てきます。できるだけ早めに、医療機関やカウンセラーなどに相談してみてください。

 


 

 

意識的に「仕事や家事をしない時間」「自分だけの息抜きの時間」を作る

最近は家事・育児を積極的にする男性も増えつつありますが、実際には女性が中心となって家事・育児を行っているという家庭はまだまだ多いです。男性のように仕事帰りに同僚とちょっと一杯飲んで帰ったり、仕事が終わらないから残業したりすることが、ママたちはそう簡単にはできないのが現状です。

そんななか、限られた時間の中で仕事と家事・育児をやりくりしようとすると、自分だけの息抜きの時間は後回しになり、結局そのまま一日が終わってしまいます。1日10分でも15分でも良いので、意識的にそういう時間を持ち、エネルギーをチャージすることを習慣にしていきましょう。

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エネルギーのペース配分を考える

仕事が忙しいと、どうしても仕事にエネルギーを奪われてしまうのは当然のこと。そういう時には、家庭で大事にしたいポイントを明確にし、手抜きできるところは手を抜くと決めて、エネルギーの配分を工夫していきましょう。「できる人」は上手に手を抜いています。

 


 

自分の状況を、できる限り客観的にとらえるようにする

Bさんのように「仕事も家事・育児も完璧にやらなければいけない」「自分ががんばりさえすれば達成できるはず」「できないのは自分の努力と能力が足りないせいだ」と考える傾向のある人は、自分が無理をして達成できたことも、「できて当たり前」になってしまい、できないところばかりに注目して、もっとがんばらなくては……と、自分を追いつめてしまいます。

また、周囲に弱みを見せたり、助けを求めたりすることが苦手なことも多いので、問題を自分一人で抱え込んでしまい、周囲からはその辛さが見えにくくなり、ますます一人で抱え込むという悪循環に陥りやすくなります。

「うまくいかない」と感じた時には、自分の思い込みから離れて客観的になるために「自分の大切な人が自分と同じ状態にあったらどうするかな?」と立場を変えて考えてみるようにしましょう。

 


 

 

北嶋尚子(きたじま・なおこ) 臨床心理士

Writer

北嶋尚子(きたじま・なおこ) 臨床心理士

2004年、臨床心理士の資格を取得。以来、精神科クリニックや大学、企業など、さまざまな現場でカウンセラーとしての仕事に従事。日々がんばっている人が、よりいきいきと、より健やかに毎日を過ごしていくためのサポートに取り組んでいる。

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