毎日16時までの時短勤務で、 保育園の送り迎えを担当
―現在、青野さんご自身が育児のため時短勤務中であるとおうかがいしました。
はい。今、うちには3人の子どもがいて、いちばん下がまだ生まれて4か月なんです。ですからこの半年間は、僕が時短勤務をすることで上2人(5歳、3歳)を見て、妻が下の子に集中できるようにしています。
―具体的に、1日のスケジュールがどのようになっているか教えていただけますか。
まず、朝は6時ごろに子どもを起こし、着替えさせ、その後食事をさせて……。
―食事も青野さんが用意されているのですか?
いえ、食事は基本的に妻が作ってくれていますね。それをなんとか上の子2人に食べさせて、7時20分にはバスに乗って保育園まで送り届けます。そこで先生とやり取りして、またバスに乗って戻ってくる。
その後、8時20分ごろまでには自分も出社します。そこから業務をスタートし、16時には仕事を切り上げ、またバスで保育園に子どもたちを迎えに行く……というような感じですね。
―奥様との役割分担は、ご夫婦のあいだではっきり決めていますか?
それほど明確ではなく、日によって変わります。もちろん僕が送り迎えできないときは、妻に代わってもらうこともありますよ。
―奥様はフルタイムで働いていらっしゃるのですか?
そうです、バリバリのキャリアウーマンというほどではありませんけど。今は下の子の育休中です。
―2人、3人と子どもが増えると、仕事を変える、もしくは辞めてしまうという女性がまだまだ多いと思います。でも、奥様の場合はそうならなかったのですね。
ならなかったですね。そもそも、僕は妻のキャリアに干渉する気がないので「好きにしたら」と。まあ、逆に彼女は僕に干渉してくるんですけど(笑)
―そうなんですか(笑)
妻の育った家庭は両親が共働きだったので、もともと「男は仕事、女は家庭」という昭和の価値観から抜け出していたのかもしれないですね。だから、僕に対しても家事・育児についてのリクエストがガンガンくるんですよ。
―もともと、専業主婦タイプの方ではなかったと。
もし妻が専業主婦になっていたら、おそらく僕の働き方には何の変化も起きなかったでしょうね……。
「仕事大好き!」な父親が、 3回の育休を取った理由
―奥様からの育児に対する積極的なリクエストに対して、お子さんが生まれた当初はどう感じていらっしゃいましたか?
正直なところ、1人目のときはかなり逃げ腰でした。僕自身は、そもそもすごく「昭和」の価値観を持った人間なんです。ベンチャー起業家ですし、本来はもう「職場で死にたい!」というくらいのワーカホリックなので。
―それにも関わらず、奥様に対して「家事・育児は任せる!」とならなかったのはなぜですか?
2人目の子どもが、生まれてしばらく病気がちだったんです。「これはアカン」ということで僕も育休を取らざるを得ず、夫婦で協力して育児をするようになりました。さらにそこへ3人目が生まれたので、もう価値観うんぬんというより、「やるしかない」という状況になったというか。
―お子さんが生まれた3回のタイミングすべて、青野さんはそれぞれ違うかたちで育休を取られているそうですね。
はい、そうです。1人目のときは、たまたま文京区長の成澤廣修さんが「育休取ったら?」とすすめてくれて。それで8月下旬に2週間、育児休暇を取りました。ただなんというか、それは「育休」と自慢できるようなものではなかったですね。僕自身の気持ちも逃げ腰でしたし、夏休みとどう違うんだ、みたいな。
―そうだったんですか。
ただ2人目のときは、いつまで続くかわからない病気との戦いがはじまってしまったので……。だから半年間、僕が水曜日に休暇を取ることにしたんです。妻が週4日、僕が週3日、というサイクルになるように。
―ああ、なるほど。
病気の子どもをケアするというのは、精神的にもかなりしんどいですからね。ちゃんと、妻がリフレッシュしながら動けるようにしていました。
―そして現在は、3人目のお子さんのために、16時までの時短勤務をされているということですね。
そうです。今年の3月からスタートして、半年間続ける予定です。
「俺は何をやっているんだ」 自分への無力感と苛立ち
―やむを得ない事情があったとはいえ、3人のお子さんの育児を、今も“続けて”いらっしゃるところに感銘を受けます。がむしゃらに働いていた仕事の時間を削って育児をすることに対し、迷いや葛藤はありましたか?
それはもう、いろいろありました。1人目のときに取った2週間の育休期間が終わるころには、僕、完全に自信喪失していましたから。
―それは、育児に対してですか?
そうそう。正直にいうと、最初は「楽勝だろう」という気持ちがどこかにあったんですよね。でも実際にやってみると、育児の大変さは、本当に想像を超えていました。
例えば、子どもが思うように離乳食を口にしてくれず、小さなコップ1杯食べさせるのに30分格闘するわけですよ。そうすると「この時間でメールが7通返せるぞ」とか、そんなことばかり考えてしまって……「俺は一体何をやっているんやろ」と。
―なるほど……。
家で仕事する時間も、結局その2週間、ほとんど取れなかったんです。でも、グループウェアで社内の新しい情報は次々に共有されてくる。それに対して、育児をしながらでは自分は何もできない。自信をなくしたうえ、大きな無力感にさいなまれて、当時はかなり落ち込みましたね。
―そうした葛藤がありながら、青野さんが現在も育児に積極的に関わっていくことをやめないいちばんの理由はなんですか?
その苦しかった2週間の育休最終日に、神が降りてきたんですよ。
子どもを育てることは、「未来の市場」をつくること
―神が降りてきた?
そう、ふと気づいたというかね。今は確かに大変だけれど、この子はやがて手がかからなくなって、成長して次の世代を担う社会人になるんだと。彼らが存在するからこそ、「市場」がつくられる。今自分がやっていること、この子育てというのは「未来の市場」そのものをつくっていくことなんだ、と気づいたのです。
―それはまた、すごい発想の転換ですね……!
特に我々サイボウズがやっているのは「1ユーザーいくら」という商売なので、人口にビジネスが直結しますからね。この先、気持ちよく商売し続けるためには、まずはがんばって子育てしないと、この市場がなくなるぞ、と。
―育児と仕事のあいだに、つながりを見出されたということでしょうか。
そういうことです。それまでは、育児と仕事の関連性が全く見えていませんでした。でも両者がしっかりと結びついたことで、その瞬間に「何やってんのやろ」という自問自答に対する、明快な答えが出たんです。
これこそが今、日本の経済を停滞させている根本的な課題であるーーそう気づいて、「これや!」と思いましたね。ですから、たとえバリバリ働きたい気持ちがあったとしても、子育てを優先せずして、仕事ばかりしていてはいけない。そう考えるようになりました。
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―育児を、社会人としてのひとつの「役目」のようにとらえていらっしゃる?
そうですね。単純に自分の子どもを育てるという話だけではなく、社会として次の世代に受け継いでいく必要があるということです。だから本当はもう少し、子育ては「社会全体」で担うものという意識にシフトしてかなければならないと思っています。親になった人だけが背負うものではなく、日本全体で「さあ、次の世代をどう育てていきますか?」という問題と、本気で向き合う必要がある。自分の子どもの育児に関わっていくなかで、「社会人としての役割」を強く意識するようになったんです。
▼後編につづく
後編では「古い価値観をどう変えていくか」、「夫婦の関係性で大切なこと」などについて、引き続き青野さんご自身のお考えをおうかがいします!
「あきらめる」ことが、夫婦間パートナーシップの秘訣?(後編) —2015/6/29
Photo by Yoko Miyazaki/Text by Yu Oshima