日本を代表する作家がつづる、深みある映画エッセイ
みなさん、映画はお好きですか? 好きだけど、最近は休みの日に子どもたちとアニメ映画を見に行くくらい……という人も、久しぶりに1人で昔の恋愛映画をぼーっと眺める、なんていう時間を過ごすのもいいかもしれません。
「どんな映画を見ようかな?」と考えたとき、インターネットで口コミサイトをチェックするのもいいですが、たまには映画に対して造詣の深い人の書いた、映画エッセイを参考にしてはいかがでしょうか。
今回ご紹介する塩野七生さんの「人びとのかたち」は、さまざまな映画のテーマを掘り下げて書かれた、とても奥深いエッセイとなっています。
映画から読み解かれる、女性の生き方や恋愛のスタイル
塩野七生さんは、1937年生まれで、イタリア・ローマ在住の作家。代表作に「ローマ人の物語」などがあり、地中海世界の歴史を中心とした作品を数多く執筆されています。
人間の歴史を真摯に見つめてきた塩野さんだからこそ、映画を見る視点にも独特な味わいがあります。
例えば「女の生き方」という一篇では、『ローマの休日』のオードリー・ヘプバーンを「シンデレラ症候群」、『ボディガード』のホイットニー・ヒューストンを「ガードされたい症候群」として、女性がもつ願望について言及しています。
“シンデレラを演じつづけた彼女だが、女としては、ガードされたい症候群に属していたのではなかったか。(中略)オードリーはずっと女優でありつづけたのです。女として仕事をする気があるならば、シンデレラになったのではやれないのではないだろうか。オードリーの演じた女たちには共鳴できなかった私だが、女としてのオードリーには共鳴できるのである。”
(文庫版p.217より引用)
このように、ときには作品を飛び出し、ひとりの女優の生き方、女性そのものの本質にふれるーー今までひとつの見方しかしていなかった作品も、こうした塩野さんの視点を通してみることによって、新たな発見があるかもしれません。
塩野七生・著/1997,新潮社